XRD(X線回折)による物相分析は、結晶性材料を対象に、含有される結晶相の種類とその存在比率を明らかにする試験手法である。ブラッグ条件を満たした回折X線を回折角と強度の形で取得し、得られた回折パターンをデータベースと照合することで、構成相の同定と定量を行う。本稿では、測定原理と回折データの読み方、粉末・薄膜・バルクといった試料形態別の前処理、リートベルト法を中心とした定性・定量解析、感度・再現性・定量下限といった装置性能評価、金属・セラミックス・医薬品への適用場面、さらにJIS・ISOなどの関連規格と判定基準までを、実際の試験フローに沿って解説する。
とは — 測定原理と回折データ
X線回折の原理は、結晶内の原子面がX線を規則的に回折する現象に基づく。入射X線の波長をλ、面間隔をd、回折角をθとすると、ブラッグの式 2d·sinθ = nλ を満たす角度で回折強度が極大となる。結晶構造ごとに面間隔の組合せが固有であるため、回折角の位置は物質を識別する指針となる。測定では、Cu Kα線など単色X線を試料に入射し、θ–2θ走査により回折強度プロファイルを取得する。得られる回折パターンは、横軸に回折角(2θ)、縦軸に強度で表示され、ピーク位置・相対強度・半値幅・バックグラウンドが基本情報となる。非晶質相は明確なピークを示さず、ブロードなハローを与えるため、結晶相との区別もパターン判読の重要な要素である。
分析試料の種類と前処理 — 粉末・薄膜・バルク
試料形態に応じて前処理と測定光学系が変わる。粉末試料が最も標準的であり、粒度を整えるためにめのう乳鉢などで微粉砕し、試料板に平らに充填して表面の高さを揃える。充填の偏りや优选配向は相対強度を乱す要因となるため、粒子のランダム配向に努める。薄膜試料は回折体積が小さいため、低入射角法や検出器の高感度化を用い、基板による回折線との分離を考慮する。バルク材は切削・研磨で測定面を出すが、研磨ひずみが回折線をブロード化させるため、場合により化学的あるいは熱的エッチングで表面層を除去する。いずれの形態でも、測定前の表面清浄化と試料高さの位置決めが角度精度に直結するため、取扱い手順を標準化しておくことが望ましい。
測定手法と定性・定量解析 — リートベルト法・PDF対照
定性解析では、測定パターンからバックグラウンドを除去し、ピーク検出によって2θと強度の組を抽出する。これをICDDなどの回折データファイル(PDF)と対照し、主ピークの一致から候補相を絞り込み、残存ピークから副相を順次同定する。回折角の系統偏差がある場合は、内部標準やゼロシフト補正で角度校正を行う。定量解析の代表的手法はリートベルト法である。各相の結晶構造モデルから計算プロファイルを作成し、観測パターンとの差が最小になるようスケール因子・格子定数・ピーク形状パラメータを最小二乗法で精密化し、スケール因子から各相の質量分率を算出する。非晶質相を含む系では、既知量の内部標準を添加する方法により結晶化度や非晶質量を評価できる。粉末パターン分解と組み合わせれば、ミクロひずみや結晶子径の評価にも用いられる。
感度・再現性と定量下限 — 装置性能評価
物相分析の信頼性は装置性能と測定条件の管理で決まる。感度は、光学的系の集光性能、検出器の計数効率、バックグラウンド比に依存し、微量相の検出限界は回折強度とバックグラウント変動の比から論じるのが妥当である。一般に、微量相の定量下限は数%質量分率のオーダーとされ、共存相の回折線重なりや吸収効果で変動するため、対象系ごとの検討が必要である。再現性評価では、同一試料の繰り返し測定によるピーク位置と強度のばらつきを確認し、角度再現性は標準試料(シリコン粉末など)で定期校正する。走査速度を遅くし積算回数を増やせばS/N比は向上する反面、測定時間が延びるため、目的の検出レベルに見合う条件設定が実務上の要点となる。定量結果には合成標準不確かさを付記し、解析モデルの妥当性を適合度指標で確認する運用が望ましい。
適用材料と場面 — 金属・セラミックス・医薬品
金属分野では、熱処理や加工による析出相・残留オーステナイト・酸化物の同定に用いられ、組織管理や熱処理条件の評価に活かされる。セラミックスや電池材料では、原料相の純度、焼成による相変化、副生成物の有無が回折パターンから判定され、配合・焼成工程の管理指標となる。医薬品分野では多形(ポルフィズム)解析が代表例であり、有効成分の結晶多形・仮晶・水和物の区別が溶出性や安定性の観点から要求され、原薬・製剤中の多形比率の定量にもリートベルト法が適用される。その他、塗膜・触媒・鉱物・腐食生成物の分析など、結晶性を示す多様な材料に適用でき、破面生成物の同定による損傷原因推定といった故障解析の場面でも利用される。試料が結晶性を保つことが前提であり、試料調製時の加熱等による相変化には注意する。
判定基準と関連規格 — JIS・ISO対応
物相分析の基本はJIS K 0131(X線回折分析通則)に規定されており、装置・測定・解析の一般事項が整理されている。定量分析とデータ品質については、リートベルト法を用いた回折パターンの定量に関する国際的なガイド類が参照され、R因子等の適合度による結果検証の考え方が示されている。装置校正にはNIST SRM 660系列などの標準粉末試料が広く使われ、角度校正と分解能確認に用いられる。判定に際しては、(1)主要ピークの2θが許容偏差内で一致すること、(2)同定相の全主要ピークが説明できること、(3)説明不能ピークが残る場合は副相または内部標準由来と確認できること、を基本とする。定量値の合否を問う場合は、測定不確かさを含めて仕様値と比較し、判定基準と測定条件を報告書に明記するのが作法である。
FAQ
XRD物相分析で再測定やデータの疑義が生じた場合はどう扱われますか?
回折角校正の実施記録、測定条件、試料充填状態の記録を確認したうえで、同一試料による再測定または解析条件の見直し(バックグラウンド設定・相モデルの見直し)を行います。疑義解消には標準試料による装置確認と、解析担当者以外による検証が有効です。
XRDによる物相分析の納期と報告書はどのように交付されますか?
納期は試料形態と解析内容により変動します。定性分析は比較的短期間で、リートベルト定量や多形定量は精密化と検証の工程を要します。報告書には測定条件、回折パターン、同定相、定量値とその不確かさ要因を記載して交付します。
XRD物相分析に提出する試料にはどのような要件がありますか?
粉末・薄膜・バルクのいずれも対応可能です。粉末は微粉砕された状態、バルクは測定面が平らに仕上げられた状態が望ましく、薄膜は基板情報を申告してください。加熱や粉砕による相変化が懸念される試料は、その履歴を事前に伝えてください。
