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X線回折による相分析で何が分かるか?パターン判読と検査フロー

材料試験2026-10-27

X線回折(XRD)による相分析は、結晶性材料中に存在する結晶相の種類と存在比を明らかにする検査である。測定対象は金属、セラミックス、各種粉体など多様な試料に及び、ブラッグ回折の原理に基づいて回折角と強度のパターンを取得する。本稿では、相分析で判明する事項と基本原理、試料の前処理・粉末化条件、回折パターンの判読手順と同定方法、定性・定量分析の性能指標、JCPDSカードとISO・ASTM規格に基づく判定基準、素材別の分析事例の順に、検査フロー全体を解説する。得られた知見は、品質管理、工程異常の原因究明、受入検査の合否判定に活用できる。

分かること・基本原理

X線回折法では、結晶格子に入射したX線が格子面で回折し、ブラッグの条件(2d sinθ = nλ)を満たす角度でConstructiveな干渉が生じる。測定により得られる回折角と強度の組を回折パターンと呼び、面間隔dは回折角から、格子定数は面間隔の組から算出できる。パターンは物質ごとに固有であるため、構成結晶相の同定、残留オーステナイトや遊離石灰のような微量相の検出、格子定数変化による固溶限の評価、結晶性の目安となる半値幅評価が可能である。非晶質相は明瞭な回折線を与えず、ハローと呼ばれる広がった散乱として観測される。ただし軽元素の位置や酸素欠陥の直接的な決定は困難であり、これらは回折強度の解析や他の手法との組み合わせで評価する。

測定試料の前処理と粉末化条件

前処理の要点は、測定面に粒径と配向の偏りを持たせないことである。粉末試料はめのう乳鉢で数十マイクロメートル以下まで微粉砕し、プレス充填時に平滑な測定面を形成する。粗い粒子が残るとマイクロアブソープションと粒度効果で強度が乱れ、層状や針状結晶は(00l)面への配向が強まり特定回折線が過大評価される。塊状の金属や焼結体は、切断・埋込・研磨による表面加工層を除去した後に測定するか、粉末化して測定する。加工歪や粒径歪を避けるため、粉砕は過度な長時間研磨としない。吸湿性試料や酸化しやすい試料は密閉ホルダーまたは不活性ガス置換下で測定する。有機物や粘土鉱物では加熱や溶媒処理が配向と層間変化の確認に用いられるが、処理条件は試料の熱的性質を確認してから設定する。

回折パターン判読手順と同定方法

判読はまず測定範囲(一般的に2θで10~90度程度)のパターン全体を確認し、バックグラウンドとKβやターゲット由来の副線を識別することから始める。次に、強度の大きい回折線から低角側の3本程度の面間隔d値を求め、JCPDSカード(PDFデータベース)の索引と照合して候補相を絞り込む。候補相の全回折線が観測線で説明できるか、逆に観測線に未帰属の線が残らないかを確認し、残れば第2相以降を順次同定する。ICDD(International Centre for Diffraction Data)が発行するPDFをはじめ、結晶構造データベースと検索ソフトを組み合わせれば多重相の同定も効率的に進む。定量はRietveld法または内部標準法で行い、全相の質量分率を算出する。強度比だけによる簡易定量は、結晶性や吸収の差により誤差が大きくなる点に注意する。

定性・定量分析の性能指標(検出下限・定量性・再現性)

定性分析の検出下限は一般に質量比でおよそ1~5%程度とされ、回折強度の弱い相や強い主相と重なる相では悪化する。定量性を左右する要因は、粒子径分布、 Preferred orientation(配向)、吸収効果、計数統計である。Rietveld法による相定量の再現性は、試料調製が適切であれば数%程度の相対誤差に収まるのが通例である。再現性の確認には、同一ロットから調製した複数試料の反復測定と、日を変えた繰り返し測定を用い、回折角のドリフトを標準試料(Siなど)で校正する。装置間比較では光学系の幾何学的配置差が強度比に影響するため、同一条件での測定記録を残す。報告書には測定条件、同定相、定量値とその誤差評価、検出下限の見積り根拠を明記し、第三者検査としての妥当性を担保する。

JCPDSカードとISO/ASTM規格に基づく判定基準

同定の根拠となるJCPDSカードには、物質名、化学式、空間群、格子定数、回折面の面間隔と相対強度が記載されており、観測値との一致度は面間隔のずれと強度の相対関係で評価する。定量判定では、規定された相の存在量が上限値を超えないこと、または規定相が検出下限以上に存在することを合否条件とする。試験方法の国際規格として、X線回折による定量相分析のRietveld法を扱うISO規格、残留オーステナイトの定量法を定めたASTM E975、金属相のX線回折定量に関するASTM E978、セメントおよび水和物の相組成分析に関する一連の規格が参照される。判定にあたっては、引用したカード番号と規格番号を報告書に記録し、検出下限未満の相は「検出されず」と定量値とは区別して表記する。

適用素材別の分析事例(金属・セラミックス・粉体)

金属材料では、焼入鋼中の残留オーステナイト定量、表面浸炭・窒化層の炭化物・窒化物同定、応力焼鈍による再結晶の評価が代表例である。セラミックスでは、アルミナやジルコニアの安定剤由来相(正方晶・単斜晶の比率)の判定、焼結助剤による反応生成相の確認、原料に含まれる遊離石英の検出が行われる。粉体では、原料鉱物の同定、粉砕処理による非晶質化の評価、キャラクタリゼーションとしての多形判定(例えば二酸化チタンのルチル・アナターゼ比率)が普及している。いずれの素材でも、測定は粉末法または平板試料法で行い、同定・定量・格子定数の結果を一連の検査フローとして報告する。

FAQ

X線回折による相分析で再測定やデータ疑義が生じた場合はどう対応しますか?

標準試料による角度校正の実施記録、測定条件、試料調製手順を確認した上で、同一試料の再測定または別洛度からの再調製試料による反復測定を行います。定量値の疑義はRietveld解析の適合度と配向・粒度の影響で評価し、必要に応じ第三者機関による照合測定を依頼できます。

X線回折による相分析の検査期間と報告書納期はどの程度ですか?

試料受付後、粉末化・充填などの前処理、測定、パターン判読とRietveld解析を経て報告書を作成するため、通常は数営業日から十数営業日程度です。多相試料や再測定を要する場合は期間が延びるため、事前に試料の性状と分析目的を伝え、見積りと納期を確認してください。

X線回折による相分析に提出する試料の要件は何ですか?

粉末であれば数十マイクロメートル以下に粉砕したもの、塊状試料は測定面が平坦なものが適しています。量は目安として粉末1~数グラム、板状試料は数平方センチメートル程度あれば測定可能です。吸湿性・酸化性試料はその旨を申告し、測定したい相(残留相、微量相など)を明示してください。