電磁両立性(EMC)試験は、電子機器や電気製品が外部の電磁環境へ与える妨害(エミッション)と、外部から受ける妨害に対する耐性(イミュニティ)の両面を評価する試験である。対象は情報技術機器、家電、産業用制御装置など多岐にわたる。本稿では、試験の概要と評価項目、サンプルの準備と事前確認、準電界暗室におけるCISPR 32に基づく放射エミッション測定、IEC 61000-4シリーズに基づくイミュニティ試験の各手法、測定性能と判定基準、さらに適用規格と試験結果の活用場面を順に解説する。認証取得や設計改善の場面で求められるEMC試験の実務知識を、手順と留意点を中心に整理する。
の概要と評価項目
EMC試験は、機器が正常に動作しつつ、他の機器へ電磁妨害を与えず、かつ外部の電磁妨害を受けた場合にも機能を維持できるかを確認するものである。評価は大きく二系統に分かれる。一つはエミッション試験であり、放射エミッション(電波の空中放射)と伝導エミッション(電源線等を経由する妨害)を測定する。もう一つはイミュニティ試験であり、放射イミュニティ、静電気放電(ESD)、電源ラインのサージ、イミュニティファーストブリッジ(EFT/B)、雷サージ、電源電圧の変動や欠落等への耐性を評価する。評価項目は対象機器の区分や適用規格により異なり、試験前に評価対象の系統と限界値を特定しておく必要がある。
試験サンプルの準備と事前確認
試験前に、対象機器を実際の使用状態に近い構成で準備することが前提となる。試験系(ESU)には本体のほか、電源アダプタ、信号ケーブル、周辺機器、負荷シミュレータが必要であり、仕様書に記載された最長・標準のケーブルを用意する。動作モードを確定し、通常動作時に最も妨害が大きくなる設定で試験を行う。事前確認として、電源電圧と周波数、接続インターフェース、接地条件を仕様どおりに整える。プリテストとして近接界プローブや簡易スペクトラムアナライザによるエミッションの傾向確認を行えば、暗室試験前の設計修正が可能となり、再試験の手間を減らせる。サンプルの改造履歴やファームウェアのバージョンも記録し、試験報告書との整合を保つ。
放射エミッション試験の方法(準電界暗室・CISPR 32)
放射エミッション測定は、準電界暗室(SAC)内でCISPR 32の要求に従って実施する。被試験物(EUT)はターンテーブル上に設置し、規定の高さの絶縁台を介して載置する。測定アンテナはバイコンダクティブアンテナと対数周期アンテナを用い、1~4mの高さを走査しながら水平・垂直両偏波を測定する。ターンテーブルを回転させてEUTからの最大放射方向を捕らえ、30MHz~1GHz(必要に応じ1GHz以上)の周波数範囲を準尖頭値検波(QP)と平均値検波(AV)で読み取る。受信機はCISPR 16-1-1に適合するEMIレシーバまたはスペクトラムアナライザを用いる。測定値は暗室の正規化サイト減衰(NSA)等のサイト特性を考慮して評価し、限界値とのマージンを確認する。ケーブルの配線形状が結果を左右するため、配置は規格の図示に従う。
イミュニティ試験の方法(IEC 61000-4シリーズ)
イミュニティ試験は、IEC 61000-4シリーズの各パートに定められた擾乱をEUTに加え、機能への影響を観察する。静電気放電試験(IEC 61000-4-2)では接触放電と空中放電を、操作者が触れる筐外面と金属部に印加する。放射無線周波数電磁界試験(IEC 61000-4-3)では、電波無響室等で変調をかけた電磁界を暴露し、EUTの動作を監視する。EFT/B(IEC 61000-4-4)はバーストパルスを結合クランプを介して信号・制御線へ、サージ(IEC 61000-4-5)はコンビネーション波形を電源線と信号線へ印加する。このほか、電源周波数磁界(4-8)、パルス磁界(4-9)、電圧低下・短時間中断・変動(4-11)、伝導無線周波数擾乱(4-6)が要求される場合がある。試験レベルは製品規格(ファミリー規格)の規定に従って選定する。
測定性能と判定基準
エミッション側の判定は、CISPR 32が参照する限界値との比較により行う。準尖頭値と平均値の各検波値が、クラスA(住宅環境以外)またはクラスB(住宅環境)の限界値を下回っていれば適合である。測定の不確かさを考慮し、限界値に対して一定のマージンを残す運用が一般的である。イミュニティ側の判定は性能判定基準A~Dで表す。Aは擾乱中も通常性能を維持するもの、Bは一時的な機能低下後に自己回復するもの、Cは操作者の介入で回復するもの、Dは回復不能な損傷またはデータ消失である。製品規格がどの擾乱にどの判定基準を許容するかを規定しており、試験中はEUTの動作を連続監視し、異常の有無と回復状況を記録して判定する。
適用規格と試験の活用場面
EMC試験の適用規格は、機器区分ごとに定められる。マルチメディア機器にはCISPR 32/35、家庭用電気機器にはCISPR 14-1/14-2、照明機器にはCISPR 15、工業計測制御機器にはIEC 61326系が広く用いられる。各国・各地域の法制において、EMC試験への適合が市場流通の条件とされることが多く、試験結果は適合宣言や認証取得の技術文書として利用される。開発段階では、プリコンプライアンス測定により設計早期に問題箇所を特定し、シールド、フィルタ、接地、ケーブル処理の改善に反映する。量産段階では、設計変更や部品変更があった際の再評価、および定期的事後確認に試験を用いる。報告書は測定条件、試験構成、写真とともに整備し、審査や顧客要求への対応に活用する。
FAQ
EMC試験の報告書には何が記載され、どのような場面で使われますか?
報告書には、試験サンプルの仕様と試験系(EUT)の構成、準電界暗室での放射エミッション測定結果、IEC 61000-4シリーズ各試験のレベルと性能判定基準A~Dの判定、試験写真と使用機器の情報が記載される。適合宣言、認証取得、顧客審査、設計変更時の再評価などに技術文書として用いられる。
EMC試験を依頼する際の流れと確認すべき要点は何ですか?
依頼時に、対象機器の仕様書、電源条件、動作モード、ケーブルや周辺機器を含む試験系の構成を試験機関へ提示する。適用規格とエミッションのクラス、要求されるイミュニティ試験の項目とレベル、判定基準を事前に合意しておく。標準と最長のケーブル類や、擾乱中の動作監視方法も確認を要する。
EMC試験の費用はどのような要因で変わりますか?
費用は評価項目の数、試験日数、サンプルの準備状況により変わる。放射エミッションと複数のイミュニティ項目を組み合わせる場合は暗室や擾乱発生装置の使用時間が増える。試験系の構成が未確定な場合や不適合による再試験が発生する場合は追加の工数が生じる。事前のプリテストで設計を固めておけば再試験を減らせる。
